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ギターの塗装に使う塗料にはニトロセルロースラッカー、セラック、ポリウレタン、ウレタン、漆、オイルなどがあります。 少しう古いギター(ビンテージと呼ばれるものなど)にはニトロセルロースラッカーが使われていることが多いですが、安価な現代のギターにはポリウレタンが使われることが多いようです。うちの工房ではエレキギターはウレタンの薄塗りで仕上げ、アコースティックギターはセラックでフレンチポリッシュで仕上げ、特別なモデルでは漆仕上げを行っています。

ギターに塗装する目的は

  • 木部を環境の変化や汚れから守ること
  • 美観を整えること

が主です。

この目的にかなうのであればどんな塗料を使っても構わないと思っています。最近は環境問題が叫ばれており、なんとなく石油系の原料の使用を躊躇う傾向がありますが、猛毒でない限り(毒として機能しない方法で)使うならば問題はありませんし、地中に埋もれた炭素を大気中に還元し植物の食べ物を増やせるのは人間による石油の使用だけですから、むしろ石油系原料を使ってどんどん燃やすべきだとさえ思います。ですので「石油系だから」という理由で塗料の優劣を決めることはしません。

よく「ラッカー塗装のギターが良い」なんていう人がいますが、これは迷信ではないかと思っています。自分でギターを作るようになって様々な塗装法を試した実感としてそう思います。ビンテージギターではラッカー塗装のものが多くて一部のファンには人気がありますが、当時は「それしかなかった」だけのことで「ラッカーだから良い」というわけではなく、それよりも「木材が良かった」とか「作りが丁寧だった」ということの方がギターの良さに影響を強く与えていたと思います。

ギターにとっての良い塗装とはどういうものか

塗装は薄い方がギター自体の振動が損なわれません。アコースティックギターのボディではこれが顕著です。 薬品耐性の高いものや水に対する耐性が高いものを使えば長期間安定した状態を保てます。

歴史的なこと

ギターに限定するなら、最初はセラックかオイルで仕上げるのが主でした。セラックはラックカイガラムシ(このラックがラッカーの語源)をすり潰して分泌物を取り出して精製したものです。その後、ニトロセルロースラッカーに移行するわけですが、それは「ニトロセルロースラッカーの原料が大量に余ったから」だと言われていますが、「虫を大量に殺さなければならないから」という理由もあるようです。現在ではニトロセルロースラッカーの乾きにくいという難点を嫌ってポリウレタンやウレタンを使うのが主流です。大手メーカーでも特別な(そして高価な)モデルでは今でもニトロセルロースラッカーやセラックを使ったモデルがありますが、大量生産モデルで使われることは稀です。

効率性

安価に速く大量に生産するのに向くか向かないかを考えると、ポリウレタンが最良で、ウレタン、ニトロセルロースラッカー、セラック(フレンチポリッシュ)、漆となります。ポリウレタン、ウレタン、ニトロセルロースラッカーの場合はほとんどの製作者がスプレーガンで塗料を吹くのが普通です。刷毛塗りではどうしても刷毛筋が出てしまうので塗り重ねる回数が増え研磨にも時間がかかるため敬遠されます。 セラックを使ったフレンチポリッシュはタンポでアルコールで希釈したセラックを何度も塗りこむ手法なのでとても時間がかかります。 漆は塗り立ててしまうと乾燥に時間がかかりますから、摺漆(拭き漆)で仕上げるのが主流かもしれませんが、湿度が高くないと乾かないという性質なので楽器の塗装には使いにくいです。

美観

塗装のクリア層を厚くすると光の屈折率のおかげで深みのある艶が出ます。それを狙ってクリア層を塗り重ねる場合もあるように見受けられます。漆は光の屈折率が高いので、他の塗料よりも薄塗りで深みのある艶が得られます。 完全に透明な塗装膜を作ろうと思うと、セラックや漆は褐色にならざるを得ないために使えません。 美観については塗料の優劣よりも施工技術に負うところが多いので、ここで論じる必要はないかもしれません。

音質

オイルフィニッシュはほとんど木の特性そのままですので、ホワイトボディ(塗装前の状態)で良い音質であれば最良かもしれません。 次がセラック。薄塗りで仕上がり柔らかい塗装膜なので木の振動を妨げません。 ニトロセルロースラッカーも薄塗りで仕上げればセラックに近い特性だと思います。 漆とウレタンは塗装膜が硬いので薄塗りで仕上げれば良い音質が得られます。 塗装膜が薄いと美観を整えるための研磨作業に熟練を要しますから、大量生産方式の安価なギターの場合は若干厚塗りになっていることがあります。

耐久性

ウレタンと漆が最良です。薬品や水に対する耐性が高く劣化も少ないです。 ポリウレタンやニトロセルロースラッカーでは材料の配合によっては黄ばむものもあります。 セラックは他の塗料に比べると若干耐久性が低いと思いますが、大切に扱われることの多いクラシックギターなどではあまり問題にならず、アルコールで容易に溶けるので、補修がしやすいのはむしろ利点なのかもしれません。

まとめ

大量生産なら安価な塗料を使うでしょうし、うちの工房のように作ってもせいぜい年間10本程度なら塗料の価格はあまり気にしません。 それよりも作業の効率が重要で、施工に時間のかかるものは特別な場合以外は使うことはありません。 大手のメーカーでもセラックやラッカーを使ったモデルを用意していることがありますが、普通の人が気軽に購入できる価格ではありません。 販売時の価格を抑えられて、効率性や耐久性があって、音質も美観も優れているギターが理想なのですが、論じてきた塗料を混ぜて使うことはできないので良い所取りするわけにもいきません。 今のところウレタンの薄塗りが理想に一番近いと思っています。

ギターに何を求めるかは千差万別で、美観を重視する人もいれば、好きなミュージシャンと同じブランドやモデルを持つことに喜びを感じる人もいれば、安価で丈夫なギターを望む人もいれば、なんでもいいという人もいます。ひとつのやり方ですべての人の要望に応えるのは難しいのですが、うちのような小さな工房で手作りに近い工法では、都度希望に沿うように塗料や塗装方法を選ぶしかないと思います。