ギターという世界的に見てもそれほど大きな市場ではない分野で良い職人になるために日々試行錯誤・研鑽を続けています。これまでに完璧にできたと思えたことが一度もありませんが、今後も思えることはないのでしょう。

職人は実用的な製品を手早く作り程々の金額で提供する職業人です。芸術家のように自分の気が済むまで時間を書けて美しいものを作るというわけではありません。腕が良ければ結果的に美しいモノができあがります。それを芸術品と称する場合もありますが、飽くまでも目標とするのは実用品です。

家を作る職人(大工さん)は堅牢で住み心地の良い家を立てる専門家です。遊び心でちょっと奇抜な設計をするような場合もあるでしょうが、目的は飽くまでも実用性です。 ギター製作者だって職人ならば実用性重視になって当然。趣味のモノですから多少の遊び心があっても良いかもしれませんし、使用する人の価値観は多様ですから、何が良いかということを決めるのは難しいですが、綺麗だけど音が悪いギターとか、カッコいいけど弾きにくいギターを狙って作ることはありませんし、それでは使い手の評価も得られにくいと思います。

ビンテージギターと称される高価なギターがあります。有名なメーカーが数十年前に製造したギターで、物凄く高価な値段がついています。 ギター市場の規模は全世界で6000億円とか。家電や自動車に比べると小さな市場です。ギタリストは浮気症なのかどうかわかりませんが、何本ものギターを所有することが多いです。ギターが好きな人のほとんどがすでにギターを持っているという状態でもあります。こういう市場では「懐古趣味的なモノ」や「(本当にそんなに価値があるかどうかが疑わしい)付加価値の高いモノ」が出てきます。形だけの復刻版とかビンテージを模したものとか見た目の派手な杢のある材料を作ったものとか。そういうものを買うのは良くないと言うつもりはまったくありません。欲しい人は後悔しないように手に入れるべきかもしれません。

これは現在製作中の工房オリジナルモデルの一本です。 ボディはホワイトアッシュ、ネックはメープルです。 丈夫に作りました。 ピックアップはSSHの構成で幅広い音色が出せて、めったに折れないメープルネックですが、折れても大掛かりな修理が必要とならないデタッチャブル方式で、思い切り弾いちゃってくださいというギターです。 なるべく安っぽく見えないように配慮して染色をしています。下のモデルの半分位の価格ですが安物には見えないと思います。

これはトップにカーリーメープルを使ったホローボディのモデルですが、杢のはっきり出たカーリーメープルが高価なので、上のモデルと比べるとどうしても販売価格が高くなってしまいます。また、一本のマホガニー材から作ったヘッドに角度のついたネックは上のモデルと比べると折れやすいです。角度を付けるために木の繊維を切ってしまいますから、どうしてもそこが弱い。高価だから大事に扱ってくださいねというギターなのかもしれません。色はバースト塗装と言われるグラデーションがかかったもので、杢が透けて見えるようにしています。

これはウォルナットを使った軽量ボディのソリッドモデルです。軽いギターが欲しいという方がかなりいます。通常のソリッドボディのギターは4キロ弱くらいの重量ですが、これは2.6キロと軽量です。軽量ですが、側板はウォルナットの薄板を曲げて貼り合わせることによって強度を出しているので座って体重をかけても折れません。作る手間が普通のソリッドボディの5割増くらいですが、材料や部品の選定で価格を調整したので、それほど高価にはなっていません。

これは国産の木材(欅)使い漆で仕上げた試作モデルで非売品です。 家具を作るわけではありませんから、音響に悪影響がない程度に塗装膜はなるべく薄くしています。欅はマホガニーに比べると柔らかい音質かな。悪くないです。 塗装にかかる手間が半端ではないので、定番のモデルで漆を使うことはありません。

上から2番めのカーリーメープルを使ったモデル以外は、ごく普通のグレードの材料を選んでいます。音響部品として問題がなければグレードにはこだわらない。その代わりに構造や塗り方を工夫して良い仕上がりを目指します。実用品と言っても見た目が良いに越したことはありませんから。結果的に価格が抑えられて費用対効果が高くなると良いと思っています。

ネックの接合部や指板などの修理が必要になりがちな部分は膠を使って接着していますので、強く接着されていながら剥がしやすくなっています。壊れたり減ったりしても修理をしながら長く使ってもらいたいから修理をしやすくしています。