ギターの音を取り出すためにエレキギターではマグネット式ピックアップを使い、アコースティックギターではピエゾ素子やコンデンサーマイクを使うのが一般的です。 最近はモノのインターネット化の流れの中で省電力で高性能なセンサーの需要が増えてきました。例えばアナログデバイセズ社のADXL1001のような加速度センサーのように広帯域・低ノイズ・高応答性の製品があります。

このセンサーの場合は構造物の歪みを計測するのが目的で作られたもので、橋の歪みを計測することによって事故を防ぐといったことに使われるようです。 用途としてすぐに思いつくのが、ギターのボディの振動を解析するアプリケーション。このようなセンサーをボディの複数箇所に設置して、ボディがどのように振動しているかを計測しデータベース化するといったことが考えられます。ピエゾ素子を使っても同じことがやれますが、デジタル信号に変換する前段階でインピーダンス変換をするためのプリアンプを必要とするために複雑なシステムになりますが、このようなセンサーならマイコンに直結することができるので単純な回路でやれます。

弦の振動がボディに伝わると複数の共振点(振動が大きい周波数)が現れます。計測した場所ごとに違う共振点と振動の減衰特性が組み合わされて音質や音量が決まると思われます。 オリジナル製品を作る際に「ここはこういう振動」というのを意図的に創り出すための知識になるかもしれません。

こういうセンサーをギターの複数箇所に設置してアナログの振動をデジタルの信号に変換して処理する方式でギターが作れないものかと思います。これを加速度ピックアップと呼ぼうと思います。 センサー自体は5mm角ほどの大きさであることから、頑張れば弦ごとにサドルやナットに設置することが可能です。この方式ならセンサー間のクロストークを気にせずに済むのでMIDIを経由してシンセサイザーへの入力をするのに良さそうです。(ピエゾピックアップを使った同じ目的の製品はすでに存在します) 共振点と減衰をモデリングしてデジタル信号処理によって音を作り出せばLes Paulの音、Martinの音というのが作れるように思います。 市場に出回っているアンプシミュレーターなどはたぶんそういう仕組みなんでしょうね。

下の写真は弾きやすいのでとても気に入っているYAMAHAのサイレントギターです。

このギターはサドル下にピエゾピックアップを搭載しプリアンプ回路、リバーブ回路、パワーアンプ回路を持った基板が入っています。 ほとんどボディの振動がないギターですから、普通のクラシックギターのような音色ではなくて、あくまでも「YAMAHAのサイレントギターの音」なのです。 これにモデリングした音に変換する回路を取り付ければ普通のクラシックギターのような音が出せるかもしれません。

ギターの弦の周波数は80Hzから1300Hzくらいで、それに倍音を含めも上の周波数が数KHzくらい。デジタル化する音域は一般的なオーディオの20Hzから20KHzくらいの帯域をカバーできれば十分なので、それに適したセンサーがあれば試作できそうです。 ギターの音色に関しては様々な分析を行われており、論文もたくさん見つかりますので、一通り目を通してみようと思います。

弦を弾いて演奏するギターである限りは弦やボディの振動を電気信号に変える点ではマグネット式であろうがピエゾピックアップであろうが加速度ピックアップであろうが楽器としての原理は変わらないので目新しいものではないかもしれませんし、同じような考え方ですでに研究や実装が行われているかもしれません。 またGraph Tech社のGhost Pickup Systemのようにすでに製品化されているものもあるので、同じことを別のやり方でやるだけで新規性もありません。